Vol.04 友よ輝く明日がある 『わにとかげぎす』
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この人の描く漫画が面白くないわけがない、という信頼のおける漫画家が何人かいる。古谷実はそのうちの一人だ。

漫画をあまり読まない人のために書いておくと、古谷実は1993年に週刊ヤングマガジン誌上にて「行け! 稲中卓球部」でデビューした漫画家である。私くらいの世代(30歳前後)にとって最も衝撃的だったギャグ漫画としてよく挙げられるのがこの「稲中」と吉田戦車の「伝染るんです」であり、特に「稲中」はそれ以前と以後でギャグ漫画を分けることができるくらいの影響力を持っていた。お笑いでいうところのダウンタウンみたいなものか。
それ以降、「僕といっしょ」「グリーンヒル」とギャグテイストを残しながらも、むしろストーリー漫画へと徐々にシフトチェンジしていく。特に「稲中」の後釜だった「僕といっしょ」なんかは、ギャグが少ないといった理由で当初ファンからよくダメ出しされていたものだ。
しかしながら、その試みは後にだれにも文句を言わせないほどの傑作を生み出させる。「ヒミズ」ではさらにギャグを排し、人間の暗部をひたすら追及。そしてギャグ、シリアス、全てにおいてバランスの取れた(あくまで俺の中で)最高傑作の前作「シガテラ」を誕生させたのだ。
もうとりあえずここまで完璧。

そして割かし早いインターバルをおいて発表されたのがこの「わにとかげぎす」である。
スーパーマーケットの夜間警備員をしている32歳男が自分の今までの不抜けた人生を後悔し、孤独からの脱却を願ってとりあえず友達を欲しがる、ってのが今んところの内容。

比喩の仕方や主人公の立場なんかから、最初は古谷版の「最強伝説黒沢」か?とも思ったが、「黒沢」ほどの強烈なインパクトは正直なかった。何よりまず主人公のドン詰まり感が足りていない。
第一話では、人生という道のりを下を向いて歩いていたら知らない間にワケのわからないところにいた、と言っている主人公であるが、見るとそんなに酷い状況じゃない。だってちゃんと就職してるじゃん
いくら主人公の勤め先が他の警備会社よりも薄給だと描いてあっても、夜間警備だったらそこまで悪くはないだろう。見るからに無趣味そうなので貯金もそれなりに貯まっているはずだ(その後のストーリーから最低でも220万円以上はある)。元手もあるし、若くないとはいえまだ32歳、本人次第でこれから何とでもなりそうである。
先行き不安を示すにしてはこの主人公の状況は少々ぬるめだし、友達が欲しいというテーマはちょっと一般性に欠けるような気がしないでもない。ちょ〜っと今回はパワー不足かな、なんて思って読み進めていたわけであるが、果たしてどうか。

やはりそこは古谷実、地力が違った。面白い。
「ヒミズ」や「シガテラ」のように新機軸を打ち出しているわけではなく、今までの手法で違うストーリーを描いているだけのようにも見えるが、それだけで十分面白いのである。キャラクターの設定、読者に不意に突きつける悪意、笑いのセンスに溢れたセリフの数々、どれを取ってももはやお家芸ともいえる代物であり、これらを駆使するだけで一級品の漫画が出来上がってしまう。

もちろん今のところ「シガテラ」に迫るほどの完成度はない。ストーリーも少々とっ散らかった印象がなくもない。
ただ、物語はまだ始まったばかりである。今後どのように話が展開していくのか想像も付かないし、例えどんな展開になろうとも、古谷節が炸裂している限りは幸せに読める。
こういうのを安心のブランドというのではないだろうか。


(必要漫画熟練度)
その昔、私の友人が「最強伝説黒沢」を読んでいると、その彼女に「なんでそんなうだつの上がらない主人公のドン詰まり漫画を読んでいるのか?」と問われ、養豚場のブタでも見るかのように冷たい目を向けられたという。
この「わにとかげぎす」だったらお許しが出るのだろうか?

11月2日