Vol.05 けんかをやめて二人をとめて 『シグルイ』
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漫画は全て自らの手で作り上げるものだといって、原作付き漫画を否定する漫画家もいるらしいが、果たして読者にとってそんなことはどうでもいいことである。出てきたものが面白ければそれでよい。この『シグルイ』も、原作が付くことによって成功した漫画の一つである。南條範夫の時代小説『駿河城御前試合』の第一話「無明逆流れ」を大胆にアレンジし、山口貴由の新境地ともいえる作品に仕上がっている。

山口貴由は少年チャンピオンに連載された『覚悟のススメ』『悟空道』のぶっ飛んだセリフと世界観で人気を博した漫画家だ。その表現は時として過剰で、過剰であるが故、笑えた。もちろんそれに関しては作者も自覚していたはずで、過剰な表現に伴うおかしさを積極的に取り入れ、「ジャイアント・さらば」「宇宙仏契」といった破壊力のある言葉と合わせることで、時には冗談とも本気とも付かない絶妙なオリジナルの笑いを作り上げていった。

しかし、その次の『蛮勇引力』はどちらかというと不発に終わった感がある。原因の一つは演出の過剰が常になってしまったことだろう。 読者を楽しませるためとはいえ、結果かえってメリハリがなくなってしまい、前二作を超えるほどのテンションを生み出すことが出来なかった。 そして、そうなってくると今度は逆に彼のストーリー面での弱さが目立った。山口貴由は瞬間瞬間のメーターの振り切り具合は素晴らしいが、実は細かいストーリーを作るのが余り上手とはいえない。『蛮勇引力』ではその弱点が明るみに出てしまったように思う。

そして、『シグルイ』である。原作付きということで、ストーリー面での心配はなくなった。むしろ、原作という塀がある安心からか、かえってその庭の中を伸び伸びと楽しんでいるかのような躍動感が作品中にある。さらに特筆すべきは、今までどの作品にも共通した悪ふざけスレスレの笑いの要素がなくなっていることだ。原作付きで恐縮したのだろうか。おかげで可笑しさを得るために過剰一本やりになった演出は抑制され、自家中毒から解放された。そういう意味でも非常に読み心地のいい作品になっている。原作が付くことでこれほど何もかもよい方向に転んでいった例も少ないのではないだろうか。


(必要漫画熟練度)
山口貴由は武士や軍人や渡世人に通じるような男の世界を描いてきた漫画家だが、読んだ人なら知っている通り、かなり倒錯的である。昔っから臓物をぶちまけるのが好きだったし、鍛えられた肉体に極端なエロチシズムを持っている。引き締まった体、流れる汗、ほんのり立った乳首、みたいな。主人公が何かと裸になるのも特徴だ。一巻のカラー見開きページで登場人物の藤木源之助と伊良子清玄が桜吹雪をバックに血だらけの全裸で腹から腸をぶちまけながら斬りあっているのが、なんとも分かりやすい例ではないだろうか。そこはかとなく三島由紀夫を思わせるところもあるお人である。

11月10日