Vol.08 ひげづらの男は君だね 『水の色 銀の月』
水の色銀の月 吉田基已 講談社
1998〜2000年にかけて週刊モーニングにて不定期連載された吉田基已デビュー作の青春漫画『水と銀』が6年ぶりに『水の色銀の月』とタイトルを変えてリニューアル。単行本1巻は過去に発売された『水と銀』をそのまま再録、2巻からが新作となっている。
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唐突ですが皆さん、青春していますか? 『ちびまる子ちゃん』の母スミレによれば、青春とは13〜14歳から25歳くらいまでの間の時代のことを指すという。それなら、これから迎える13歳以下は置いておくとして、すでに25歳を過ぎてしまった皆さんは過去に満足のいく青春を送ることが出来ましたでしょうか? 果たして、振り返ってみても後悔ばかりが募るしょっぱい青春を送られた貴方(は?)。そんな貴方のためにあるような、まるで青春を追体験できる非常にお得な漫画を前回に引き続き紹介してみようかと思う所存でございますよん。 この作品はバンド「鉄道詩人会」のメンバーを中心としたオムニバス形式の青春群像劇である。物語はまず、万年美大留年生の亜藤森が、よく晴れた日なのにレインコートを着ていた不思議な女子高生・桐生星(通称星クン)と出会うところから始まり、二人が徐々に惹かれあっていく様子を繊細な描写で切々と描く。一話完結型でそのつどスポットライトを浴びる人物が変わり、それぞれの恋愛模様が繰り広げられていくのだが、回を重ねるごとに思春期やモラトリアムのモヤモヤした感情があいまった、なんともいえず青〜い雰囲気をかもし出していくもんだから読んでいるこちらも思わず悶えてしまいそうだ。 作画は上手いとまではいえない気がするが、スクリーントーンを使わず描線とかけ網だけで陰影を付けられたコマはなかなかにレトロな趣があり、一応は現代の物語であるものの特別そういった時代性は感じさせない。おかげでこの作品にはだれの記憶にもリンクできそうなエバーグリーンな輝きがある。多分。 登場人物のことを書いておくと、中でもひときわ異彩を放つのはやはり亜藤森だろう。浪人、留年を繰り返し、バイトも遅刻ばかりでクビになるような社会的にはいわゆるダメ人間だが、いつも笑顔で人当たりがよいのでだれにでも好かれる得なタイプ。特に女性には大変モテるし、本人もかなり手が速い。ルックスはもっさりしているし、基本的にだらしないので周囲の人間はなんでアイツがあんなにもてるんだ?みたいなことを口に出したりするが、実は彼はやり手である。至近距離から女性の顔を覗き込んで「俺の目に映るものは全て美しい」な〜んてセリフを平気で言っちゃうような男なのだ。しかもそれが、この女落としてやろうとかそういった作為的なものじゃなく、素で本心から言っていたりするからむしろ天然のナンパ師なのだろう。言葉使いも独特で、「君は星って名前なのかい!?」「すごいや!!なんて素敵なんだろう!!」「うふふ」「ちょっと待ってよう」「こらっよせやい」なんて手塚治虫か藤子不二雄の世界から飛び出してきたような古い言い回しを多用する。そこらへんの浮世離れ感は他の登場人物と比べても明らかに異質のものであるが、それがむしろ一歩間違えればギスギスしそうなこの物語の潤滑油的な役割を担っていたりするから面白い。 物語はどれも淡々としており、特に劇的なエピソードがあるわけではない。登場人物は何かしら悶々とした悩みを抱え、それが何かをきっかけにほんの少し好転していくだけである。しかしながらそこで描かれている世界はまさにモラトリアムともいうべき不安定でモヤモヤした心のやり取りだ。かなりジメジメはしているものの、そういう湿っぽい青春をもう一度味わってみたい方にはうってつけの作品ではないだろうか。
青春ノイローゼ度 12月8日 |