Vol.09 天使がくれたよ四葉のクローバー 『よつばと!』
よつばと! あずまきよひこ メディアワークス
→Amazonで見る。
年の瀬が迫りつつある2006年の暮れなのであるが、大人になってからというもの一年が過ぎるのが早くなったな〜と思われている方も多いのではないだろうか。
子供の頃はもっと一年が長かったと。
その理由はこの漫画を読めば一発で理解できるはず。
つい先日、平成18年度文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で優秀賞という微妙なポジションに輝いた(笑)、あずまきよひこ作『よつばと!』だ(最優秀賞はかわぐちかいじの『太陽の黙示録』でした)。
この作品はとある夏の日に田舎から引っ越してきた小岩井家の女児よつばが、とーちゃんとその友人たち、お隣の綾瀬家の人々なんかと繰り広げる平凡な日々の物語。
本当にそれだけで、それ以上でも以下でもない話である。
なのに、もうこれがメチャクチャ面白い。
大人にとっては取るに足らない日常のひとコマの連続なんだけど、それが5歳児のよつばの目を通した途端、ありとあらゆるものが「?」と「!」で輝きだすのだ。
まずこの漫画は主人公のよつばがちゃんと子供として描けている。
大人がこんなに子供の目線でキャラクターを成立させた例って他にはないんじゃないだろうか?ってくらい。
よつばの行動パターンとか動機はまるで実際の子供みたいに生々しいし、何より自分の子供時代の記憶とかなりシンクロする部分があって、読んでいるだけで嬉しくなってくる。
なにせよつばの経験値がゼロなもんだから、よつばが体験する全てに新鮮な懐かしさを覚えてしまうのだ。
また、よつばを見守る周りの大人たちもひたすら素晴らしい。
とーちゃんはもちろんのこと、友人のジャンボ、お隣の綾瀬家の面々なんかは、本当にこんな人たちが実際にいてくれたらなあと願わずにはいられないような気持ちのいい連中ばっかりだ(ヤンダは...どうしよう?)。
まわりに彼らのような大人が一人でもいてくれたならば、頻繁に世間をにぎわせている児童虐待の事件なんて起こらないだろう。
素晴らしい大人たちの庇護の下、よつばは碇シンジもうらやむばかりの、まさに楽しい事だけ数珠のように繋ぎ合わせた毎日を送ることができるのである。
そしてそれは間違いなく子供にとって本来あるべき日常の姿なのだ。
『よつばと!』の世界は一種のユートピアだと言われたりもする。
確かに、住んでいる町並みや人々の暮らしぶり、作品全体を通しての世界観を見れば、それが素晴らしく理想的な社会であることに異論はない。
ただ、ユートピアを描いた漫画ってのは昔からあって、作風は全く違うけれど『Drスランプ』や『うる星やつら』なんかがよくその例として挙げられたりする。
しかし、それらの漫画と『よつばと!』が決定的に違うところは、『よつばと!』が現実的にありえるレベルで理想郷を成立させているところだろう。
これはかなり画期的なことで、漫画広しと言えども『よつばと!』はそれだけで特別なオンリーワンの輝きを放っている。
単行本では今やっと夏休みが終わって9月に入ったところである。
そのうち秋が訪れ、冬を迎えるだろう。
そのときよつばがどんな体験をし、どんなふうに世界をその目に焼き付けるのか。
もう一人のとーちゃんになったつもりで見守ってあげたいと思う。
☆☆☆
さて、この漫画には当然魅力的なキャラクターがたくさんいるわけであるが、その中でも特に気になった人物がいる。
お隣の綾瀬家の三女、恵那である。
小学生女子だ。
ヤバイか?
真面目な優等生タイプであり、姉妹の中でも割と控えめな方なので一見面白みに欠けたキャラクターなのであるが、私はものすごく好ましく思ってしまった。
だってこの子は本当に賢い。
きっかけは、よつば、とーちゃん、ジャンボ、恵那、その友人みうらの五人でニジマス釣りに行ったときのエピソードだ。
釣ったニジマスを焼いて食べるため、解体作業を行うジャンボを横から見ていた恵那の反応があまりにも私の心を打ったのである。
作業の過程はこうだ。
・まず、生きたままニジマスの腹をナイフで割く。
・えらと内蔵を取り出す。
・体をくねらせ、目から串を入れて串刺し。
・それでもまだピクピク動いているニジマス。
残酷さに恐れおののき、「こえ〜、こえ〜」と一緒に見ていたみうらはドン引きしてしまったが、恵那は最初こそあっけにとられていたものの、みるみる厳しい表情に変わっていった。
そして二匹目に取り掛かるジャンボに彼女は「私にもできますか?」と自ら役目を買って出たのだ。
生きたままニジマスを解体する恵那を見てみうらは「すげー」と感心しつつも、「バーチャル世代」だの「ゲーム感覚」だのと言って揶揄する。
(以上が漫画で描かれている部分、以下は私の勝手な想像)
が、みうらのその見解は大きな間違いである。
恵那はジャンボの解体作業を間近に見ることで突然理解してしまったのだ。
自分たちが普段食している動物の肉は、知らないだれかが自らの手を汚して殺し、解体したものだということを。
当たり前のことだが、最初からキレイに包装されてスーパーに並んでいるわけではないのだ。
そして、食物連鎖の中で自分はそのあがりだけをかすめ取っていた。
普通の女の子なら後ろめたい気持ちになって食欲をなくすかもしれない。
いや、むしろみうらのようにそんなことには気付かず、ただただ気持ち悪がって拒絶するのが関の山だろう。
しかし、恵那は違った。
理解したうえで、逃げなかった。
この瞬間、この機会に自らも手を汚すことで、今まで何も考えずに動物の肉を食べてきた自らの幼さに責任を取ろうとしたのだ。
だれのためでもなく、これからも肉食していく自分のために。
こんなに誠実で賢明な小学生女子を私は未だかつて見たことがない。
基本的に萌え文脈でしか語られなさそうなキャラであるが、私は違う。
きっと彼女のことをだれよりも深く理解しているのは、作者をおいては私以外におるまいて。
萌えで言ってるんじゃないぞ。
言ってるんじゃないぞったら。
言ってるんじゃないけど、第20話に出てくる肩たたきエピソードのときの花婿にはぜひ私を...(バーカ)。
(必要漫画熟練度)
もう、お子様からお年寄りまで幅広くどうぞ。
12月22日