Vol.14 ちょっと見せられないキミのカオ
     『シートン-旅するナチュラリスト』

シートン-旅するナチュラリスト 谷口ジロー 双葉社
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いきなり断言してしまうが、谷口ジローは玄人向けの漫画家である。
彼の作品は意識的に漫画を読む人でないとなかなか手に取ってくれなさそうな、どちらかというと地味目のものがほとんどだ。
しかし地味だから一般受けしないのかというと、それもちょっと違う気がするのだが。

彼の持ち味はなんといってもその画力である。
特に大ゴマの美しさは見るものを圧倒する。
業界内評価も非常に高く、日本海外を問わず多くの評論家や同業者たちが賛辞を惜しまぬほどだ。
綿密に描き込まれた絵を惜しげもなくページにちりばめ、それを無理のない構成でもってストーリーを展開していくのがどの作品にも共通するところ。
ギャグ要素は皆無に等しく、そのほとんどがしっかりとしたストーリー物になっている(その高い画力と真面目なコマ構成が全て逆の方向に作用した珍しい例が、一部で高い人気を誇る『孤独のグルメ』と言えるだろう)。

そしてそのストーリーを支えるのは関川夏央や夢枕獏といった重鎮たち(自分で手がけることもある)。
それら原作者を迎えることで、浮ついたところはないが、読み応え十分のストーリーを得ることもできている。
当然、良質な漫画をたくさん世に送り出しているのだ。
なのになぜ彼はこんなにもマイナー作家の位置に付けられてしまうのか。

覚悟して言ってしまおう。

「キャラクターの顔が変なのだ」

・・・。

ああ、言っちゃった。
いや、でも、ちょっと皆さん!そうは思いませんか!?(だれに聞いてんだ)
あんなにも丁寧に絵を描く漫画家なのに、顔面造形だけなんであんなに癖が強い?
あれじゃあ一見さんに手を伸ばしてもらえないよ。

キャラクターの顔ってのは作品の顔である。
その漫画を思い出すとき、真っ先に思い浮かぶのはたいてい主人公の顔であろう。
谷口ジローのそれは、味があると言えないこともないかもしれないが、大多数は違和感を覚えるものじゃなかろうか。
そして悲しいことに女性キャラクターが全く可愛く描けない
ここらへんが彼の作品をますます一般受けさせないところだと思うのだが、どうだろうか。
違うか。
ゴメン。

まあそういうわけだから(謝る気ゼロ)、谷口ジローは動物や自然物と非常に相性がいい
今回取り上げる『シートン-旅するナチュラリスト』は、かの『シートン動物記』で有名なアーネスト・トンプソン・シートンの半生を描いた作品だ。
彼がどういう経歴でどういう人生を歩んできたかが克明に描かれている。
しかし、この物語の主役はシートンであってシートンでない。
読者が見たいと望む、本当の主役はそれぞれの章で取り上げられている動物たちなのである。
過去作品の『ブランカ』や『神の犬』において見られたあの躍動感、『K』や『神々の山嶺』で見られる自然の厳粛さ、そういったものを期待してファンはこの作品を手に取るのだろう。
言っちゃあ悪いが、この際シートンなんてどうでもいいのである。

というわけで、谷口ジローを始めて読むなら、こういった作品から手を伸ばすのが良いかと思われる。
なんせメインが人間じゃないから、キャラクターの顔の癖の強さとか、それほど気にならない。
他の代表作である『事件屋稼業』とかよりは明らかにとっつきやすいだろう。

漫画好きなら谷口ジローを放っておく手はない。
未体験の方にはこういった作品を間口に、徐々に他作品にも触れていってもらえたらいいと思う。
そしてその絵の迫力や作品としての完成度の高さを、是非とも存分に味わってもらいたい。

3月9日