Vol.22 東京へはようついていかん 『天然コケッコー』

天然コケッコー くらもちふさこ 集英社
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映画「天然コケッコー」オフィシャルサイト

まだまだ衰える気配を見せない漫画原作の映像化であるが、今回はこの夏に無事公開された私のお気に入り作品『天然コケッコー』を紹介してみようかと思うとります。

『天然コケッコー』は大人の女性をターゲットにした少女漫画誌という触れ込みで創刊された月刊誌「コーラス」に、1994〜2000年にかけて連載されたくらもちふさこの作品。
舞台は特に作中で明らかにされているわけではないが、ガイドブックによるとくらもちふさこの母方の田舎である島根県の浜田市周辺がモデルになっているとのことだ。
主人公は中学2年生の女子、右田そよ。
物語は彼女が通う小中併せても生徒が6人しかいない廃校寸前の学校に東京から転校生がやってくるという、舞台が田舎であるという以外は、余りにも王道な展開で幕を開ける。
ほとんどが一話読みきりの形式で成り立っており、そよと転校生の大沢広海との恋の行方を、家族や仲間たちとの交流などを含めて、ユーモアを交えながらも田舎らしいゆったりとしたスピードで情緒豊かに描いた作品である。

この作品を読むと、作者の底知れぬ力量にいつも感心させられる。
くらもちふさこといえば人間関係における心の機微を描くのが抜群に上手く、それは本作においても存分に発揮されているのだが、特にこの『天然コケッコー』ではそれ以外にも遊びのギミックが満載で、読んでいて非常に楽しい。
前述の通り物語は全て短編の形式で進んでいくのだが、一話丸ごとを右田家で飼ってる猫の目線から見てみたり、セリフも擬音も一切排除したサイレント仕立てにしてみたり、同じ時間軸を別の人物の立場から描いてみたりなど、見せ方のバリエーションが非常に多い。
特に圧巻なのが、単行本10巻の最後、scene47「告白」。
右ページには均等に割られた8コマにそよと広海の顔アップを交互に並べて順に会話させ、左ページには1コマ丸々ぶち抜きで風景ごと二人のロングショット。
これを延々28ページにも渡って繰り広げるという、かなり挑戦的なことをやっている。
こういった手法は一歩間違えれば前衛に陥ってしまいそうだが、くらもちふさこの凄まじいところは、それら手法が全て作品の雰囲気を盛り上げることのみ、非常に効果的に作用していることだ。
気負いなくサラリとこなしている(ように見える)ので、全く鼻にも付かない。
これら表現の達者さは、真の実力者ならではのものだろう。

当時すでに、くらもちふさこは押しも押されぬ大ベテランであった。
『いつもポケットにショパン』などの少女漫画の古典といってもいいような作品を残しており、彼女の作風に影響を受けた漫画家は数知れない。
そんな御大が未だに瑞々しい感性を持ち続け、現役バリバリで、そんじょそこらの新人よりアグレッシブに漫画に向き合っていることにちょっとした感動すら覚える。
作者自身が間違いなく楽しんで漫画を描いているだろうことが紙面から伝わってきて、読んでいるこちらが嬉しくなってくるほどだ。
この姿勢はちょっと(どころではなく)見習うべき漫画家も多いのではないだろうか。

作品のラストはなぜかちょっと急ぎ気味で終了した感があり、読者として登場人物たちになんとなくお別れが出来てないような気にもさせられるが、この作品の面白さはほぼパーフェクト。
漫画家くらもちふさこの集大成といっていいほどの大傑作である。

8月19日