Vol.23 さあ出ておいできみのこと待ってたんだ
『HUNTER×HUNTER』
HUNTER×HUNTER 冨樫義弘 集英社
→Amazonで見る。
さてさて、1年8ヶ月にも渡る長期休載を経て週間少年ジャンプに舞い戻ってきた『HUNTER×HUNTER』。
これからガッシリ楽しませていただけるものかと思いきや、たった10週だけの集中連載ということで、オイオイ、休んでる間に書きためてなかったのかよ!ゴラ!という気にならないこともないが、とりあえず本人に続ける意思があるのが確認できただけでも良しとしたい。
このまま何事もなかったことにされるのかとも思っていたので。
『HUNTER×HUNTER』は念といわれる特殊能力を駆使して主人公の少年ゴンが仲間たちと力をあわせて敵と戦う、いわゆるバトル漫画だ。
ただこの作品では、バトル漫画とはいっても従来の少年漫画で王道だった正義と根性があればとりあえず勝つといった勧善懲悪的なものではなく、勝利するためにはそれなりの理由とロジックが必要とされる。
緻密な構成と人物関係を配した非常に奥深いドラマが、未だに読者を捕らえて離さない罪作りな作品だ。
作者の冨樫義弘は『遊幽白書』で週刊少年ジャンプの最黄金期を築き上げた立役者の一人である。
当時発行部数で超イケイケだった少年ジャンプは、その人気の影で他紙以上に連載作家陣を酷使していたといわれている。
作者の作品に対するモチベーションが明らかに落ちていようとも、人気がある限りは終了させることを決して許さなかったのだ。
バトル漫画ならば、敵を倒してもさらに強い奴、そいつを倒してもまたさらに強い奴を出してくるといった感じだ。
もちろん最後には強さのインフレーションが極限に達し、作品が破綻することになる。
その中では完全に尻すぼみに終わってしまった『ドラゴンボール』のような残念な作品もあれば、奇跡的に名作のまま美しく完結することが出来た『スラムダンク』のような作品もあった。
しかし、その時代を築き上げた漫画家たちが連載終了後、理由は違えど揃いも揃って週刊少年ジャンプから姿を消してしまった、という点ではどれも同じと言える。
では冨樫はどうであろうか?
『遊幽白書』のあの異常なラストの収束の仕方を見るにつけ、当時の編集者側と円満な関係などあろうはずがないことは明らかだ。
実際、両者の間に確執があったというのもよく耳にする話だ。
しかし彼は残った。
あの激動の時代を駆け抜けた漫画家の中では唯一と言ってもいいだろう。
なぜ彼が週刊少年ジャンプにその後も在籍し続けたのか、それは関係者以外分からない話である。
ただ思うのは、そこら辺の事情で今の彼の奔放な連載が成り立っているのかなあ、ということだ。
『遊幽白書』以降の冨樫と編集者の力関係は、明らかに冨樫の方が強い。
読者ならご存知の通り、『HUNTER×HUNTER』は休載の連続でここまで来た。
連載の途中からは毎週載っているのが奇跡のようなもので、いつまた休載に入るのか分からない綱渡りのような状態が続いていた。
そして今回の実に1年8ヶ月に渡る長期休載である。
まあよくも掲載誌を代えずに連載再開できたものだと感心する。
また、彼の作画はしょっちゅう乱れた。
始まりは、旅団編で陰獣が出てきた回だったと思う。
ネーム段階みたいな落書きスレスレの絵を全編に渡って堂々と紙面に載せてきたのだ。
冨樫がまた壊れた!と当時はそう思った。
だが、その後も確信的に手抜きの絵で連載されることが多くなり、ついにはそれがデフォルトのようになってしまったのだ。
これらの常軌を逸した連載形態は、ネット上などで常々叩かれてきた。
確かにそれらの批判は正論であろう。
ただ、それでも『HUNTER×HUNTER』の面白さにはだれも逆らえないという厳然たる事実が存在する。
いくら批判したところで、載ったらみんな一応は読むのだ。
だったらそれらを自分の中で消化して、気分よく作品と向き合ったほうが得策ではないか?
というわけで、私なりの消化方法を以下に書いてみたいと思う。
・連載を落とさないのは無理!諦めろ!
いきなり後ろ向きだが、こればっかりは諦めざるを得ない。
そもそも「旅団編」や「グリード・アイランド編」を読めば分かるとおり、あの複雑なプロットを週刊で連載し続けるのははっきり言って無理がある。
むしろ一ファンの意見から言わせてもらえれば、作品のクオリティ向上のためだったら、少々の休載なんていくらでも大目に見られるというものだ(まあ1年8ヶ月はちょっと長すぎるような気もするが…)。
『ガラスの仮面』や『バスタード!』のことを考えてもみて欲しい。
同じ遅筆でも、それらと『HUNTER×HUNTER』ではわけが違う。
・作画の劣化は規制対策!
最も批判の的になっているあの手抜き絵であるが、これもファンならご存知の通り、単行本化されるときには全て修正されている。
このことから考えるに、これは残酷描写規制への対策なのではないだろうか?
『HUNTER×HUNTER』は少年漫画ながらグロテスクな描写が少なくない。
というよりも、むしろ作者自身が好んでそれを描いているのだからどうしようもない。
彼の作品や残しているコメントを見ればだれもが分かるとおり、富樫は死体グロや奇形に一方ならぬ執着を持っているのだ(言い切った)。
そもそも主人公の名前がゴン・フリークスである。
つけるか? 普通、あの主人公にその名前。
この漫画において、ある程度の残酷さは作者の資質からしても必須なのである。
しかしながら、人が死ぬことすら滅多になくなった少年漫画、それもドメジャーな週刊少年ジャンプにおいてそんな彼の創作活動は確かに目に付くし、悪くすれば何かのおかしな団体からクレームが出る可能性がある。
つまり手抜きの絵を雑誌に載せるのは、それを見越した上での処置ではないかということだ。
・雑誌はお試し版!
例えばネット(Amazonとか)で音楽を視聴する時、われわれは容量を圧縮し音質が劣化された状態の楽曲を聴いていることになるわけだが、これもそう思えばどうだろうか?
かなり無茶を言っているのは承知のうえで、敢えて、だ。
もちろんその場合、『HUNTER×HUNTER』だけが目当ての人はジャンプを買わず、立ち読みで済ませなければならない。
他の連載もガッチリ読むという人は、ジャンプの代金の中に『HUNTER×HUNTER』分は含まれていないと思わなければならない。
お試し版に金を払うわけにはいかないからね。
すべては単行本のために、ということで。
編集部の在りようやモラルなんてものをこの際うっちゃっておくことができさえすれば、絵に気をとらわれずに楽しむことができるというものだ。
むしろ単行本でどんなふうに直って出てくるのか楽しみですらある。
二度おいしいと言えるかもしれない。
以上が私が常日頃から心がけている『HUNTER×HUNTER』の幸せな読み方である。
さっきも書いたが、いくらケチをつけてもこの漫画には敵わないのだ。
読み返してみて強く思うが、この漫画の面白さは尋常ではない。
もういい歳なのでそうそう少年漫画に心動かされることもないが、この漫画だけは別格だ。
大人をうならせるほどの緻密な構成と、少年心を震わせる熱い展開。
こんな優れた娯楽を放っておく手があるものか。
最後にもう一度だけ書いておこう。
あの時代の週刊少年ジャンプを代表する漫画家で今でも残り続けているのは冨樫義博だけなのである。
私はそこに彼のある種の男気を感じるのだ。
当時熱狂したジャンプ読みの私としては、そんな彼にはとことん甘い読者の顔になる。
がんばれ冨樫!
フレー!フレー!冨樫!
以上、ご清聴ありがとうございました。
10月9日