1.

彼は、考えていた。
それは、ゆうべ観た映画についてだった。

その夜はきっと退屈になるだろうとわかっていた彼は、
めずらしくレンタルビデオ屋に行き、
なんとなく気になっていた監督の少し前の作品を借りており、
それを、ビールを缶のままちびりちびりとやりながら観た。
あらすじを指先でなぞる程度にしか知らなかったストーリーに、
いつの間にか彼は引き込まれていた。
アメリカの(正直、彼はアメリカが嫌いだ)、
社会的メッセージ色の強い作品を数多く撮ってきたその監督の映像は、
彼の心をざらざらした手のひらでわしづかみにするように、
吐き気のする胸騒ぎと甘酸っぱい感傷を残した。
真っ黒の画面の上に、気泡のように絶え間なく上ってゆくエンドロールが、
彼を現実の薄暗く見栄えのしない平和な部屋へと静かに連れ戻した。
彼は、少しだけ安心した。
そして、そのまま仔犬のようにちいさくなって、眠った。

今朝、彼はループする曲から逸脱するかのように眠りから覚め、
プレイヤーに入りっぱなしになっていたDVDを取り出して、考えていた。
あんな風に、観る人の心の中にずしりと入り込むことの出来る人のことを。
恋をすることと、まるで一緒だ、と。