3.
彼女の横顔は、実に、美しかった。
手に持つ煙草の火しか見えない真っ黒のフロアの空間、
ステージからこぼれるスポットライトが時折彼女の横顔をかすかに照らす度に、
彼の心はきゅうぅと切ない悲鳴をあげた。
退屈なバンドの演奏が、劇的に彼の心情を演出する。
彼は少し焦って、平常心を取り戻そうと、ステージへと視線を送った。
大学時代の同級生が所属するそのバンドの演奏は、
彼には少し激しく音量も大きすぎて、
その小さなライブハウスの中でも彼はひとりだけ違和感を覚えていた。
どこにいても、こんな風に感じてしまう。
いつも人との距離を常に測りながら、彼は自分のいるべき場所を確かめていた。
幼い頃は、この距離感に戸惑い、苦悩した。
周りの友人達が交わす些細な会話のその意味(そもそも意味なんてないのに)
を理解できずに、人間と関わるのが苦手になった。
しかし、幾らかの時間を経て彼も大人になり、
その距離を自分のものさしでうまく測り単位をつけることによって、
傷つかずに人と関わっていくことを知るようになった。
彼はこの違和感を、今ではすっかり心地良いものに感じている。
それでも実は、渇いた自分の視線を潤わせてくれるものを、
じっと待ち続けながら。
ふと気付けば、歪んだギターの反響を残して、
ステージの上のメンバーが去っていくところだった。
彼は、随分と長い時間またひとり考え込んでいたことに気付く。
そして、はっと思い出し、彼女のもたれかかっていた壁を振り返った。
彼女は、もうそこにはいなかった。