15.

公園の中は、予想以上に広かった。
入り口のところに簡単に書かれた地図があり、
それを見たところひたすら広くてなにもない公園に思えたが、
その地図は特に簡単に書かれていたわけではなく、
本当に「ひたすら広くてなにもない公園」だった。
歩けど歩けど、そこにあるのは道と広場とベンチと、
木や草、花といったたぐいのものだけだ。
たまに、申し訳なさそうに、
変わりばえのしない地図(「現在地」の位置が違うだけ)やすらりと立つ時計が、
静かに控えめにそこにあった。
公園のアクセント(などというものが必要なのか、そもそも分からないのだが)に、
ちょっとした噴水などがあってもいいものだとも思ったが、
今年にしてはめずらしく今日はよく冷えていて、
寒々しく水を吹き出す噴水がないことに彼は少しほっとした。

そんな風にして彼がその控えめな公園をあれこれ観察しながら歩いている間、
彼女はただひたすら目的地に向かってまっすぐに歩いていた。
もともと言葉少ない彼女だが(と言っても、会うのは今日で3度目だ)、
今日の彼女は、特に無口だ。
駅で待ち合わせをしてバスに乗ってここまで来る間も、
ほとんど会話らしいものはなかった。
彼女はいつも軽く口を閉じ、何かを(もしくは、何かの方を)まっすぐに見ている。
だからだろうか、彼女には「まっすぐ」という印象がある。
そして、今日の彼女の「まっすぐさ」は、特別だった。
それは、強い緊張感とは違う、
逆に安らいだ、リラックスしているような、「まっすぐさ」だった。

彼は、そのことをとても不思議に思っていた。
なにかについてまっすぐに思う時、
ひとは眉間にしわを寄せたり、軽く爪をかんだりする。
頭を回転させ、心を揉んで、そのことについて思う。
それが、彼女の場合、
サーチライトのようにまっすぐに前を見るその瞳の奥には、
あたたかい、慈悲のような光が潜んでいるように見える。

その光をもっとよく見るために、
彼女のそのおおきな瞳を覗き込みたいと思うが、
彼には、その勇気がまだない。

彼がぼんやりとそんなことを考えつつ、
彼女の足元を3歩先に見ながら歩きつづけてどのくらい経っただろう。
彼女のちいさな黒い靴が、ぴたりと止まった。
そこは、小高い丘になったところにぽつりと立つ細い木の前だった。
ちいさなベンチが、ひとつだけある。
見下ろすと、冷たく澄んだ空気を通して、眼下に彼らが住む街が一望できた。