17.

数分後、丘の上のベンチに戻ってきた彼の手には、
ちいさな白い紙の箱が持たれていた。
「ケーキでも食べよう。」
そう言って開けられた箱の中には、
真っ赤な苺がひとつずつのったショートケーキがふたつ入っている。
そういえば、バス停の横に、ちいさなケーキ屋があった。
急いで戻ってきたのか、ひとつは崩れかけてしまっている。
彼はさりげなくそっちを自分の方へやり、
彼女にはきれいなままのケーキを差し出す。
彼女は、手にのせられた白いショートケーキをじっと見て、
その意味を図りかねて今度は彼の顔を見上げた。
真正面から彼女と目が合った彼は、
不器用に笑いながらポケットから何かを取り出した。
悲しいほどカラフルな、短くて細いろうそくだった。

彼の、そのささやかな優しさを理解した彼女は、
「ありがとう。」
とちいさくつぶやいて、そっと手にのせたケーキを差し出した。
「何色がいい?」
「うーん、黄色。」
彼は、彼女のケーキに黄色、自分のケーキにみどりのろうそくを立て、
まだ3本ほど残っていたろうそくを見てしばらく考えてから、
でたらめにふたりのケーキに全部挿してしまった。
うれしそうに、彼女が無邪気に笑った。
そして、冷たい風に消されないように気をつけながら、
5本のろうそくに火を灯した。

「こんなの、初めて。」
彼女が、手にのせたショートケーキを目の高さまで持ち上げて言う。
「手のひらにケーキをのせて食べるのが?」
彼がわざと真面目な顔で答えると、彼女は鼻を鳴らしてふふふと笑った。
こんな風にして笑えるんだ、と、またひとつ発見をする。
「猫が眠っているところでろうそくを灯してあげるの。」
目を細めるようにして、彼女は愛おしそうにろうそくの火を見ている。

ろうそくの炎が彼女のほおをかすかにオレンジに染めるのを見て、
彼はそのほおに触れてみたいと思う。
手がかじかんでいるのと、胸がちいさくどきどきいっているのとで、
味気ないプラスチックのフォークを上手く握ることができない。
でも、そのほおにも触れることができる距離に、
今のふたりはいた。