18.
気が付けば、
川辺にずらりと並んでいた渡り鳥がいつの間にかいなくなるように曖昧に、
暖かかったり寒かったりしたへんな冬が終わり、
もうすっかり春がやってきていた。
寒そうにじっと身を縮め、
みんなで同じ方を見て白い渡り鳥がとまっていた柵の向こうの川には、
今はもう、はらはらと散り落ちた桜の花びらが一面に浮かび、
ゆったりとその態勢を変えながら流れている。
今日も、彼は彼女と一定の距離を保って、その川辺を歩いていた。
初めて彼女と猫の眠る公園へ行ってから、
彼は毎月その日に彼女と逢うことになった。
ただ、何故か彼女は、その公園に行くことをもうすっかり辞めてしまった。
誰かに連いて来てもらったことで、なにかに満足してしまったのか、
ただ、きっかけが欲しかっただけなのかもしれない。
それでも、その日の1週間ほど前にきまって連絡が来るとき、
彼女が公園じゃない場所へ行こうと誘う度に、
彼は、理由も聞かずにうれしく思う。
彼女に誘われて行く先は、決まって屋外だった。
さびれた動物園に行った時は、
楽しいのかどうかわからない、いたって真面目な顔で、
次から次へと動物を見てまわった。
(彼女のその真面目な顔が、動物園という平和な場所に不つり合いで、
彼は何度かこっそり彼女の後ろで吹き出した。)
そして、彼女はよく歩いた。
日頃、家と職場の往復くらいで運動らしいことはほとんどしない彼は、
正直彼女のペースでずっと歩いていると、
翌朝足に鈍く重い痛みを感じるほどだった。
(男のくせにはずかしいので、そんなことは彼女には言わない。)
ちょうど1週間前、いつものように彼女から連絡があり、
「桜、見に行かない?」と誘われた。
「もう、ちょっと遅いよ。」とは、言わない。
待ち合わせ場所は、いつものコーヒースタンドから。