22.
彼女が淹れてくれたコーヒーをゆっくりと時間をかけて飲むと
(いつも自分で淹れている豆と同じものなのに、
彼女が淹れると美味しく感じるのは何故だろう。)、
することのなくなってしまったふたりは、街へ出た。
昨日より少し曇った空の下で、
彼女の桜色のスカートは、幾分頼りなさげに揺れていた。
特にどちらからというわけでもないが、
なんとなく足が向いたいつも待ち合わせをする駅前のコーヒースタンドの前まで来ると、
「じゃあ、また。」
と、突然、彼女はまっすぐに言った。
その「また」が本当にまたやってくるのか、
彼には分からなかったが、
唇の端を少し上げながら右手を軽く上げて返すことしかできなかった。
そして、彼のその嫌な予感はやっぱり当たり、
1ヵ月後、その後もずっと、彼女から連絡が来ることはなかった。
今になって気付いたことだが、
連絡は、いつも彼女からだった。
始まりがそうで、またその彼女のペースを心地よいものに感じていた彼は、
何度も、彼女に電話をかけようと携帯電話を開くが、
なんとなくあきらめて、溜め息混じりにそのまま閉じるということを繰り返す。
大切なことは、あきらめる、というより、そもそも期待をしないこと。
でも、彼自身の意思とは無関係に、
携帯電話が着信する度に彼の胸はどきりという。
そしてまた、彼女のあの落ち着いた声を聞くことは、出来ない。
そんな些細な日常の出来事を幾らか繰り返した、ある初夏の夕方、
雨上がりのいつもの見慣れた街(彼女がいなければ、そこはまたつまらない場所だ)を、
足元の水溜りを避けながら彼はひとり歩いていた。